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    稍意地の悪い、きびしい調子であつた。

    と、おづおづ答へた。

    「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」

    と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。

    「徳次」だの、「橋本屋」だの、「殺されかゝつてる」、「小倉組」だのいふ言葉がきれぎれに耳に入つた。

    「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」

    「千光寺さんに使ひをやつたのかい。――誰もまだ行かないつて?――何あんて間抜けだのう。庄どん、お前一つ行つて来とくれ。提灯ちやうちんを忘れるなよ。もう皆さんがお集りですからお迎へに上りました、つて云ふんだよ。うん、うん、さうよ。いつしよにお伴をしておいで」

    と、その小柄な身体から出るとはとても思へない、幅のある、濁だみ声で云つた。

    夏蚕なつごで下葉からもぎとられて行つた桑は、今頭の方だけに汚ならしい葉をのこして、全体に透きながら間の抜けた形で風にゆらいでいた。その間を房一の乗つた真新しい自転車のハンドルがきらきら日に光つた。

    「これはあなたがお乗りになるので――?」

    このどこの誰とも判らない相手を満更知らぬでもないらしい様子を見せながら、房一は手早く書きこむと、

    どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つていた。

    云ふなり又思ひ出したやうに玄関へ上つて行つた。

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