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今その文太郎が県会の視察旅行に出ていたので、法事の主人役は直造に廻つたのである。だが、文太郎はかういふ町内づき合をあまり好んでいなかつたから、たとへ在宅だつたにしても、直造は主人役を買つて出たであらう。
「きさま!あれほど云つたぢやないか。何んだこの真似は!」
「水神淵を知つとんなさるだらう」
「へえ、――どうもごていねいなことで――」
「や、ありがたう」
後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。
その「含有量」といふ言葉は富田が昨日聞き覚えたばかりのものだつた。
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。
「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」
最後に行つた家は河上の小一里るある辺で、そこいらは人家は数へるほどしかなく、河つ縁ぷちに沿つた段々畑の中を幅の広い国道だけがほの白く浮いて、次第下りに河原町の方へつゞいていた。軽くペタルを踏むだけで、彼の乗つた自転車は半ばひとりでに快い同じ速度で走つた。
「あゝ、高間さんの奥さん。――さうですね」
が、ひどく不機嫌になつた時にはこの円味が消えてしまひ、あのどぎつい部分々々がばらばらに突出し一層強くなるやうに感じられる瞬間がある。それは理由なく盛子を恐怖させるものであつた。